違法な株式発行
株式発行の瑕疵
新株発行は、会社法や定款の規定に従って発行しなければなりません。
では、「法令や定款に反した発行」、「著しく不公正な発行」が
なされようとするとき、なされたとき、
どのような対処となるのでしょうか?
会社法は、「瑕疵ある新株発行」に対して、
・事前の対処として「株主の差止め請求」を、
・引受人や取締役などの責任として「差額・不足額を支払う義務」を、
・発行後の対処策として「無効の訴え」などを
規定しています。
発行差止めを求める請求
募集株式の発行等が
「法令又は定款に違反する場合」「著しく不公正な方法により行われる場合」で
「株主が不利益を受けるおそれがあるとき」は、
株主は、株式会社に対し、
「募集に係る株式の発行」又は「自己株式の処分」をやめることを請求することができます。
(会社法210条)
この請求権に、株主の「株式保有期間」の規定は「ない」ですので
名義書換えを受けた直後の株主であっても、請求できます。
そして、会社に対して、「裁判外で請求」することはもちろん、
「訴えを提起」することも、これを本案として「発行差止の仮処分」をもとめることもできます。
「法令又は定款に違反する場合」とは?
例えば、
・現物出資について「検査役」の調査が必要であるにもかかわらず
これを欠いたまま発行された場合 (会社法207条)
・定款に規定されている発行可能株式総数を超えて発行された場合 (会社法37条)
などが考えられます。
「著しく不公正な方法により行われる場合」とは?
取締役の支配権維持のための新株発行、第三者割当てなどが考えられます。
引受人の責任
「募集株式の引受人」は、
会社に対し、下記に定める額を支払う義務を負います。 (会社法212条)
●取締役(委員会設置会社の場合は、取締役または執行役)と通じて
著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けた場合
⇒ 「当該払込金額」と「当該募集株式の公正な価額」との差額に相当する金額
この責任追及は、株主代表訴訟が認められます。
取締役と「通じて」、不公正引受をした場合ですので
この通謀がなければ責任を負うことはありません。
●「給付した現物出資財産の価額」が、「定められた募集事項の価額」に
著しく不足する場合
⇒不足額
ただし、上記の場合において、現物出資財産を給付した募集株式の引受人が
募集事項の価額に著しく不足することにつき「善意でかつ重大な過失がない」ときは、
募集株式の「引受けの申込み」又は「総株引受契約」の意思表示を
取り消すことができます。
無効の訴え
新株発行、自己株式の処分が、定款や法令に違反して行われた場合、
発行行為は「違法性」を持ちます。
会社法は、このような違法性を持つ、瑕疵ある株式発行に対して
「新株発行無効の訴え」、「自己株式処分の無効の訴え」
を認めています。
募集株式の発行無効の訴え
募集株式の発行が効力を持った後では、
その無効を主張するには「訴え」を提起することが必要となります。
「募集株式の発行無効の訴え」を提起できる人(提訴権者)は
株主、取締役、執行役、監査役、清算人に限られます。
出訴期間は、株式の発行の効力が生じた日から「6か月」以内
(非公開会社の場合は、「1年」以内 )
被告は、会社です。
発行を無効とする判決が確定すると
その判決は、第三者に対しても効力を持ち(対世効)、
発行された株式を将来に向かってのみ失効させる(将来効)こととなります。
(会社法388条、会社法389条)
この場合、会社は、
判決確定時の株主に対して、払込相当額の金銭を支払わなければなりません。
ただし、「会社の財政状況から見て、払込金額が著しく不相当」なときは
会社または株主の請求により、
裁判所が、払込金額の増減を命ずることができます。 (会社法840条)
無効原因となるもの
ただし、違法な株式発行とはいえ、既に発行され、流通している株式を
事後的に無効とする場合には
善意の株主等に不測の損害を与える可能性もあります。
よって、無効原因については、限定的に解釈されています。
無効原因となると考えられるものには以下があります。
《関連ページ》
《会社法/条文》